その11 ネコ同士でも…ウマ?
「おーっす!」
勢いよくドアが開くと、妙にハイテンションなミャーポンが入ってきました。しかし、そんな大きな声にもタカシは無反応。まだ夢の中です。
「こいつ、気持ち良さそうに寝やがって。どうやって起こすかなぁ。」
見ると、タカシはニヤけてよだれを垂らしていました。しかも掛け布団は体の半分にしか掛かっていない状態です。ミャーポンは少し考えると、タカシの耳元でこう囁きました。
「タカシ、朝ごはんだよ。裕美ちゃんが作って待ってるぞー。」
するとタカシは満面の笑みを浮かべました。しかし起きる様子はありません。どうしたものか、とミャーポンが次の手を考えようとしたその時、タカシが口を開き、はっきりしない声で言いました。
「う〜ん。ヒロミちゃんの作った朝ごはんは、いつも美味しいね〜。」
ミャーポンの一言は、タカシの夢に反応してしまったようです。ミャーポンは呆れましたが、ひとつ引っかかりました。それは「いつも」という言葉です。どうやらタカシは裕美ちゃんと一緒に暮らしている夢を見ているようです。『ガキのくせに、ませた夢見やがって。』と思ったミャーポンは、タカシの布団を思いっきり引き剥がして怒鳴りました。
「いつまで寝てるんだ。さっさと起きんかーい。」
しかし、タカシは相変わらず目を覚ましません。
「ヒロミちゃんの作るゆで卵は最高だね。」
どうやら寝言のようです。頭にきたミャーポンは、自慢である右手の爪を少し立てると、タカシのお尻に突き刺しました。
『プス。』
「ギャー。痛たた…た。」
「おはよう、タカシ。」
ミャーポンは腕を組んで仁王立ちしていました。タカシは目を擦りながら、まだはっきりとしない声で言いました。
「なんだよー。もっと優しく起こしてよ。」
「あのなー、ゆで卵なんて誰が作ったってかわらないんだよ!」
「はぁ?」
どうやらタカシに夢の記憶は無いようです。ミャーポンはタカシの手をとり、引っ張りました。
「ほら、行くぞ。」
「え?どこへ?だってヒロミちゃんと朝ごはん食べないと…。」
ミャーポンはもう、頭の血管が切れそうです。
「ヒロミちゃんって言うなって、あれ程言っただろうが。今度言ったらこの爪、鼻の穴に突っ込むぞ。」
自慢の爪がまた光りました。タカシは昨晩の姫とのことがあったのでついつい「ヒロミちゃん」と言ってしまったのでした。ミャーポンは息が荒くなってしまいました。
「ねぇ、行くってどこへ?」
「作戦会議だよ。川のほとりにみんなで集まることになってるんだ。ユウジとサキ、それにミハエルも来る。今後の作戦を練らないといけないからね。そこでついでに朝ごはんも食べるから。」
「お姫さまは?」
「しつこいなぁ。今回は仕方なくここに寝かせてもらったけど、普段はお城に泊まるなんてあり得ないんだぞ。王様に認められて、話があるだとか、懇親会とかそういう時じゃないとな。」
「ふぅーん。王様に認められればいいんだ。」
「相変わらず、ポジティブシンキングだね、タカシは。」
ミャーポンはタカシとのやり取りに疲れてしまい、せっかくのハイテンションが一転。意気消沈してしまいました。
「もう、とにかく行こうよ。」
ミャーポンはそう言うとタカシを引っ張り、二人はお城を出ました。タカシはまだ姫のことを気にしていました。しかしお城を降り返っても、そこに姫の姿はありませんでした。お城を出ると、昨日来た方角とは違う方向へと歩きます。少し行くと小さな森がありました。二人は森の中に入っていきます。木々の間からに木漏れ日はとても眩しく、タカシは思わず目を細めました。すると奥には、もっと輝かしい場所がありました。そう、大きな川です。
川は、幅が数百メートルはありました。朝日が水面に反射して、金色に輝く川のように見えました。川岸はゴロゴロと大きな岩が転がり、とてもじゃありませんが上を歩くことはできません。二人はその川岸の外側に作られた砂利道を歩いていきます。右側は川、左側は森。人が住んでいる雰囲気ではありません。不安になったタカシは思わず言いました。
「ずいぶん奥まで行くんだね。本当にみんな待ってるの?」
「ん?だって秘密の作戦会議だよ。万が一、他の人に聞かれたら大変だもの。」
「そうかぁ。で、何の会議だったっけ?」
ピタッとミャーポンの足が止まりました。
「おまえなぁ〜。ここへ何しに来たんだぁ。」
ミャーポンは振り返ると、拳を握りしめてタカシを睨みました。それを見たタカシは焦りました。
「いや、そうじゃなくて、その、姫のことだってのはわかってるよ、じゃなくて具体的に何を話すのかなーって。」
ミャーポンは体の奥底から力が抜けてしまいました。自分が短気なことにもちょっと後ろめたさを感じましたが、タカシの性格にもちょっと問題があるのではないかと思っていました。タカシはタカシで、ミャーポンをちょっと警戒するようになってしまいました。
「じゃぁ、行こうか。」
二人は無言で歩き出しました。そして、同じことを考えていました。
「ひょっとして俺たち。ウマが合わない…?」
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