その12 ミャーポンは仲間はずれ?
川のほとりには、ユウジ、サキ、ミハエルさんが丸太で作られたテーブルに座っていました。パンや魚が並んでいます。
「あ、きたきた。おはよー。」
「おっす。」
「おはようございます。」
3人が挨拶すると、タカシとミャーポンは小さな声で「おはよ」と答えました。その様子を見て、最初に口を開いたのはウサギのサキでした。
「どうしたの?なんか朝から元気無いみたいだけど。タカシくん、昨日良く眠れた?」
「う、うん。」
サキは続けてこう言いました。
「お風呂入った?お城のお風呂は広かったでしょう。」
「うん。あれは本当に大きいね。気持ちよかったよー。」
「今度空いてたら、一緒に入ろうね。」
サキはニコっと笑ってそう言いました。『やっぱり動物は、オスもメスも一緒に入るのが普通なんだなー。』とタカシは思いテーブルを見ると、ミャーポンはもう座っていて、尻尾を振りながらジュースを飲んでいました。
「あ、マタタビジュース。僕にもちょうだい。」
タカシとミャーポンは二人並んで一緒にジュースを飲み干しました。
「プハー。やっぱうまいな。」
「おいしいね。」
二人はあっという間に元気になり、ワイワイと話し始めました。ジュースのお陰でわだかまりが消えたようです。サキは二人を見て、本当に仲が良いんだなと、ちょっと羨ましく思いました。対照的に、ウサギのユウジは一人静かに葉を口にしていました。すると、ミハエルさんが切り出しました。
「食べながらいいから、みんな聞いてくれ。タカシさんのために、今回の件最初から説明するぞ。」
マタダビジュースでご機嫌な二人も真剣な表情に変わりました。
「姫さまはなぜだか理由はわからないが、人間になりたかったために、この国の外れにある呪いの魔術師のところへと行った。そして人間の姿に変えられてしまったのじゃ。これは、姫自身が仰っているので間違いないだろう。なので、その魔術師にお願いして、姫を元の姿に戻すのが我々の目的なんじゃ。」
タカシは不思議な感じがしました。『それなら別に僕を呼ばなくたって、お願いに行けばいいじゃないか。でも、呼ばれたってことは意味があるんだろうな。でもとりあえず、この雰囲気だと敵と戦ったりとか、そういう旅でははさそうだな…。』と、一安心しました。ミハエルさんの話は続きます。
「それで我々は、国を挙げてその魔術師にお願いに行ったのだが、取り合ってくれないんじゃ。いつも玄関で追い返され、魔術師の姿を見たものさえいない。」
ユウジは不思議に思い尋ねました。
「でも、王様の命令で呪いを解くことはできないの?だって魔術師もウサネコ王国の住人なんでしょ?」
「いや、王様はそういったことをするのがお嫌いなんじゃ。何事も力で解決したことは、いつか歪がでてきてしまう。道理と融和が第一のお方だからな。私も含め、国民は王様から命令をされたことは一度も無い。何事も、嫌なら断れるんじゃよ。」
「でも、姫は人間になりたかったんでしょ?人間の姿だと問題があるの?」
タカシはどうしても、姫の立場で物事を考えてしまいます。
「確かに、姫さま自身の希望ではあるんじゃが、姫はウサネコ王国の姫。次期女王が人間では…。ウサギとネコの立場が無くなってしまう…。人間に戻っていただかなくては…。」
タカシはちょっとカチンと来てしまいました。
「それは、王様の命令なんだ。」
「いや、命令とかじゃないんじゃ。そう言われると、何と言ったら良いのかわからんのじゃが…。」
ミャーポンは、タカシの言動を不思議に感じ、探りを入れることにしました。
「お前、お城で姫さまと会ったのか?」
タカシは直感で否定した方がいいと感じ、首を横に振りました。それに拘っていては話も進まないので、タカシは自分から切り出しました。
「で、僕はどうすればいいんですか?」
ミハエルさんはちょっとホッとして、話を進めました。
「ミャーポンを除いて、ウサネコ王国の住民は全員、魔術師に断られてしまった。あとは人間の力を借りるしか…。」
「おいおい、俺だけ仲間外れだったのかよ。」
ミャーポンは慌てて机に乗り出し、手を滑らせて地面にまっさかさまに落ちてしまいました。ミハエルさんは落ち着いて言いました。
「お前は、最終手段として考えていたからな。」
「へっ?」
ミャーポンは一転、地面で打った頭を摩りながら真剣な顔つきをしました。
「その最終手段であるミャーポン、そして人間のタカシさんにあとは託したいんじゃ。」
ミハエルさんの目にはうっすらと涙が浮かんでいました。ウサネコ王国にとって、姫が元の姿に戻ることが何よりも重要なことなのだと、タカシは感じました。しかし不思議に思ったのがユウジの存在です。確かに別の要件で来ているとは言え、この作戦に参加していながら、魔術師にお願いするメンバーに入っていないのですから。
「そうか〜。俺は最終手段だったのかぁ。」
上機嫌になりマタタビジュースをガブガブ飲むミャーポンを見て、ミハエルさんが深いため息をついていたのを、タカシは見逃しませんでした。
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