その6 ミャーポンとマタタビジュース
「いらっしゃいませー。」
タカシとミャーポンが店に入ると、カワイイ店員さんがエプロン姿で現れました。今度は2本足で歩くウサギです。ふたりは案内された席に座り、タカシがメニューを探していると、
「マタタビジュースふたつで。」
と、勝手にミャーポンが注文をしてしまいました。
「何勝手に注文してるんだよ。」
思わずタカシは声を上げました。
「大丈夫、大丈夫。美味しいから。」
ミャーポンはニヤニヤしています。
「マタタビジュースふたつでよろしいですね?少々お待ちくださーい。」
白いウサギの店員さんは奥へと消えていきました。辺りを見回すと、他にお客はいない様です。ミャーポンは、ふっと笑顔から普通の顔になるとボソボソっと言いました。
「いいか、タカシはもうネコだ。人間には辛いマタタビも、今のお前には大好物なはずなんだ。ネコになったということを実感してもらうために飲んでもらうことにしたんだ。いいな。」
「う、うん。」
タカシは半信半疑ながらも、店の奥から漂ってくる香りにワクワクしている自分に気づきました。
「おまたせしましたー。」
ふたつのコップがテーブルに置かれるや否や、ミャーポンはコップを手に取り、
「おー、たまんねー。」
と声を上げると、一気に飲み干しました。タカシも体がうずうずしてきました。そしてコップを手に取ると、思わず一気に飲んでしまいました。
「おいしー。」
タカシも声を上げました。
「だろ?」
また、ミャーポンはニヤニヤしながらタカシを見ていました。もちろんこの「だろ?」にはふたつの意味が込められていました。
「いらっしゃいませー。」
店員さんの声がして、入口のほうを見ると黒いウサギが店の中に入ってきました。こちらに手を上げて挨拶をしています。
『あれ?どこかで見たことがあるような、無いような…』
とタカシが考えていると、そのウサギはタカシに声をかけました。
「よう、タカシ。ネコになった気分はどうだ?」
その声は、幼い頃一緒に遊んだユウジの声でした。びっくりしたタカシは、思わず椅子から滑り落ちそうになりました。あたふたと体勢を整えながら、そのウサギに聞きました。
「ユウジ?ユウジなの?」
「そうだよ、ユウジだよ。」
「どうしてここにいるの?ユウジも姫の呪いを解きにここへ来たの?」
「へっ?」
ユウジは意外にも驚いた顔でタカシを見ました。次に口を開いたのはミャーポンでした。
「違う、違う。ユウジは別の用事でウサネコ王国に来てるんだよ。ユウジに頼まれて、俺が連れてきたんだけどな。ま、ちょうどいいや。姫の件については、ユウジにも手伝ってもらいたいという話を今日ここでしようと思って呼んだんだ。」
「別の用事?」
タカシがそう言うと、腕時計を見たミャーポンが言葉を遮りました。
「ごめんタカシ、積もる話があるだろうが、実はお前の歓迎の宴まで時間がないんだ。今日この後お城で開かれるんだけどな。」
ミャーポンは真剣な顔で話し出しました。
「まず、ユウジ。姫が呪いにかかってしまっているのは、もちろん知ってるよな。」
「うん。」
「じゃぁ話を続ける。ユウジには初めて話すけど、姫の呪いを解くために、俺たちは旅に出るんだ。姫の呪いを解く鍵を握っているのは、タカシだけなんだ。タカシは、この後初めて王様、王女様、姫さまに会うことになると思うけど、もともとネコのふりをするんだぞ。人間界から初めてきましたって顔をするんだ。そうじゃないと全ての計画が台無しになってしまう。いいな。」
タカシはゴクリと唾を飲み込むと、『できるかなぁ。』と不安な顔つきで頷きました。「ユウジも一緒についてきてくれるか?」とミャーポンがユウジに向かって言うと、ユウジは対照的に「面白そうじゃん。」と言って笑顔でうなずきました。
「よし、じゃあ契機づけに。お姉さーん。マタタビジュースふたつと、ニンジンジュースひとつねー。」
ミャーポンが注文すると、マタタビジュースとニンジンジュースがふたつずつ運ばれてきました。
「あれ?4つも頼んで…」
とタカシが言いかけると、店員さんの口から意外な言葉がでてきました。
「タカシさん、ユウジさん。私も、お姫様の呪いを解くプロジェクトメンバーのひとりなの。よろしくね。サキです。」
ミャーポンはイスの上に立つと、3人に向かってコップを掲げました。
「俺、タカシ、ユウジの再会と、姫の呪いを解く旅の成功を祈って、乾杯。」
「かんぱーい。」
4人がジュースを一気に飲み干すと、ミャーポンは腕時計をもう一度見て焦りました。
「やばい、もうお城の宴が始まっちゃう。急ぐぞ。」
そう言うと4人は店の外に出て、サキは店のシャッターを下ろし、揃ってお城へ向かい走り出しました。
『宴ってどんな料理が出てくるんだろう。』
タカシはワクワクしていました。しかし喫茶店でマタタビジュースが出る世界です。タカシを待ち受ける宴とは…?
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